社長対談

Interview with The President

第三回

介護業界の今後を見据えて

これまでの日本の介護業界は能動的に「コト」を動かすよりも、国の制度や施策によって受動的に「コト」を受け構える受け身の業界でした。
これから変革や発展が求められる介護サービス。今後を見据えると、よりよいサービスを行うために、業界内での差別化や競争がますます生じていく事が予想されます。
そのためにまず必要になるのが市場分析力。
そこで今回は、マーケットリサーチの専門家である小樽商科大学大学院商学研究科アントレプレナーシップ専攻/教授・猪口純路氏をお迎えして対談させていただきました。

マーケット状況を社内で共有し、目的に向けて取り組む

中元

今回は、私が在籍していた小樽商科大学大学院商学研究科アントレプレナーシップ専攻(以下OBS)の教授である猪口純路氏をお招きしお話を伺います。猪口先生、よろしくお願いします。

猪口氏

こちらこそよろしくお願いします。中元社長とはノースウェスタン大学での研修が印象深く残っています。2週間ほどの短い時間でしたが、学ぶことも多かったと思います。

中元

そうですね。研修中は日本とアメリカの国民性の違いやマーケットの状況の他にも、介護における制度や取り巻く環境の違いも改めて再認識できる絶好の場になりました。

猪口氏

中元社長の長所は、有言実行で行動力が突出しているところだと思っています。その経験が実際のビジネスシーンでも生かしていただければ。

中元

お褒めいただき光栄です(笑)その話はさておき、私がOBSに通うことを決めたのは正直なところ、自分の学歴へのコンプレックスがあったからなんです。高校卒業後、自衛官になった私は民間企業を経て介護業界に足を踏み入れました。これまでビジネスを学んだ経験もなく、ある意味で我流で会社経営を行ってきました。がむしゃらに仕事をしてきた若い頃は気にも留めていませんでしたが、ふと立ち止まった時にこのままあやふやな経営をしていいものだろうか、一度きちんと経営を勉強したいという念が大きくなりOBSへの入学を決めました。

猪口氏

そうなんですね。中元社長はどの経営者よりも論理的な方だと感じています。問題の側面だけを切り取らず「プロセスを積み上げた結果、こうなりますよね?」という非常に論理的な思考の持ち主だと思います。

中元

そういった意味では先生が研究するマーケットリサーチは、私の性に合っているのかもしれません。官が主体で制度を作ってきた介護業界は、他の業種に比べてマーケットという意識が低いように思えます。授業を通じて、マーケティングインテリジェンスなどの最新の知識を学ぶうちに、「これは私一人だけではなく社内で共有した方がよい」との考えに至り、定期的に先生を招いて社員向けの講習会を実施しています。

猪口氏

おっしゃる通り、マーケットリサーチは社長一人でできるものではありません。目指すべきは顧客志向経営です。お客様がサービスをどう思っているか、競合がどう動いているかなどをリサーチし、その中から得た情報をどうやって共有・運用するかを会社全体で考えていかなくてはなりません。全体のアウトフレームを描くのが社長の役割、ピースを埋めていくのが社員の役割。考え方を共有しながら、それぞれの役割をまっとうすることが大切です。リサーチだけをやって満足するのでなく、状況を俯瞰で見た結果、どういうサービスを提供するか答えを会社全体で見つけ出すことが、マーケットリサーチの目的でもあります。

中元

答えは必ずマーケットの中にありますよね。そのゴールを探し当て、効率的に動くことが理想的な経営というわけですね。

猪口氏

そうなんです。顧客には必ずニーズがあります。客の問題を解決するために企業の持つ経営資源をどうリンクさせるかがカギなんです。

ニーズ発想と人材育成

中元

先ほども少し触れたように介護業界は、政策主導の「シーズ発想」が強い業界。しかし本当に必要なのはお客様の欲しいものを提供する「ニーズ発想」。これまでは顧客ニーズは二の次のように扱われていました。このような業界でも、今後発展を考える上でニーズ発想は必要になってくるでしょうか?

猪口氏

たとえそれがB to CでもB to BでもなくB to G(政策誘導型)だったとしても、サービスという意味においては、介護も旅行も変わりません。サービス業は「人」が重要です。人を育てていくことが顧客ニーズの解決法になっていくのではないかと思います。

中元

やはり「人」なんですよね。私は目標として、介護を若者が憧れる職業の一つにしたいと考えています。魅力的な業種にしていくにはどんな施策が必要でしょうか?

猪口氏

提示したいのは「未来のビジョン」ですよね。介護に携わっていくことで、自分の将来がどうなっていくことができるかを見せてあげることが必要です。それともう一つ「プロセスの標準化」です。介護は個人によってサービス内容が異なってくるとは思いますが、一定の指標となる基準を設けることも一つの手かもしれません。

関わるすべての人が幸せになれる介護のあり方

中元

なるほど。明確な道しるべを提示することで業界の不透明な部分を払拭して、魅力ある職業にしていくというわけですね。私が取り組んでいる事業としてもう一つ取り組んでいることがあります。それが日本とミャンマーでの介護事業です。

猪口氏

僕はこの事業こそ、中元社長の論理的な視点と有言実行力の真骨頂だと思っています。

中元

ありがとうございます。これは簡単に説明すると、日本語や日本型介護を学びたいミャンマーの方に人材不足で悩む日本の介護施設に研修で来ていただき、そこで大いに学んでもらいます。本国に戻った後も、受け入れ先としてミャンマーに現地法人を作り介護の仕事を続けていってもらうという事業です。

猪口氏

この事業の特筆すべきは、みんなが乗れる絵を描けているということ。参加するすべてのモノ・コト・ヒトがwin-winの関係になっているという点です。素晴らしいと思います。

中元

この事業は、猪口先生にもアドバイスをいただきながら、進めていく予定です。建設的な雑談を重ねて、日本の介護の世界進出に向けたモデルケースにしていきたいですね。

猪口氏

日本の介護はサービスの質が高いと言われていますよね。世界標準にしていくにはなかなかハードルが高いとも思えます。社長は逆にその点をどう考えていますか?

中元

確かに文化的なこともありますし、日本には国民皆保険制度がありその上で今の介護体制が成り立っている背景があります。世界各国に皆保険のような仕組みを作るとなると、日本のシステムをそのまま世界に持っていくことは正直難しいと思います。ですが、実は台湾や中国では日本をモデルとした介護事業がスタートしている地域もあるんです。同じアジア人ということで考えると、文化のギャップも少なく共通している部分も多いんです。なので、システムは難しいかもしれませんがサービスにおいては浸透していきやすいんじゃないかと考えています。

猪口氏

欧米では「チップ」の文化がありますね。その考え方を手本に、細やかなサービスやユーザー評価の高いスタッフにはインセンティブとしてチップを付与するシステムがあると、介護の質はもっと高まるかもしれませんね。

中元

チップの発想は今まで考えていませんでした。それは面白いですね。

猪口氏

事業を行う上では、どこでマネタイズしていくかも重要です。誰の問題を解決して、誰からお金をもらうかを考えていく必要がある。国の制度の中に取り込まれていると、なかなか考えが及ばなくなる場面もあるかもしれませんが、介護は今や立派なビジネスとして存在しています。制度に頼らなくても経営ができるような体制づくりが、本来であれば望ましいですよね。結果、それが安定にも繋がり、将来を見通せる職業として若者にも人気の職業になっていくのではないでしょうか。

中元

そうですね。「誰のために」「何を行うか」そして「誰から利潤を得るか」、ビジネスとして成立していなければ、介護業界の未来はありません。そういった意味でも、先ほど先生の話にも出た「プロセスの標準化」や「未来のビジョン」の提示は大きな課題になると言えそうです。最後に、先生から介護業界で生きる私たちに一言メッセージをお願いします。

猪口氏

介護業界に従事している方や目指している方は、もともと持っている気質が心優しい方がほとんだと思います。人と繋がること、心通わせることに喜びを感じる、こんな素晴らしい人材が集まる業界は他になかなかありません。さくらコミュニティサービスは、共感できるサービスやビジョンをしっかり持っている会社。中元社長が持つ圧倒的な行動力と、スタッフのみなさんの献身的できめ細かい人間力が会社をもっと成長させていくと私は思っています。

中元

猪口先生、ありがとうございました。これからも私たちの心強いパートナーとして、ご指導よろしくお願いいたします。

猪口純路氏 略歴

小樽商科大学大学院商学研究科アントレプレナーシップ専攻/教授
主な著書には、『グローバル環境における地域企業の経営 第3章 「カイハラ:技術革新で地場産業の革新を牽引する」』,文眞堂,2008年(共著)『社会企業家を中心とした観光・地域ブランディング (第1章を分担執筆)』,博英社,2011年(共著)などがある。